因州和紙
Inshu Washi
因州和紙は鳥取県で生産される伝統的な手漉き和紙で、清澄な水と良質な楮・三椏を原料とし、強靭さと滑らかな風合いが特徴である。
歴史
因州和紙の起源は古く、奈良時代にはすでに因幡国(現在の鳥取県東部)で紙が漉かれていたと伝えられる。平安時代には朝廷への献上品として知られ、その品質の高さが広く認められた。江戸時代には藩の庇護のもとで生産が組織化・拡大され、公用文書や書物の用紙として重用された。明治以降は機械製紙の普及により手漉き和紙の生産量は減少したが、伝統的な技法を守る職人たちの努力によって品質と技術が継承され続けた。昭和の時代に国の伝統的工芸品として指定を受け、今日では書道用紙・版画用紙・工芸品素材としてのほか、文化財の修復用紙としても高く評価されている。
素材
因州和紙の主原料は楮(コウゾ)と三椏(ミツマタ)で、一部に雁皮(ガンピ)も用いられる。楮は繊維が長く強靭なため、丈夫で耐久性の高い紙に仕上がる。三椏は繊維が細かく均質で、滑らかな肌合いと独特の光沢を紙に与える。これらの原料植物は鳥取県内および周辺地域で栽培・調達されてきた。紙を漉く際には「楮の皮」を煮熟・漂白し、不純物を丁寧に取り除いたのち、とろろあおいの根から採れる粘液(ネリ)を混ぜた清水に繊維を均一に分散させる。原料の品質管理が因州和紙の優れた風合いと強度の基盤となっている。
技法
因州和紙の製造は「流し漉き」と呼ばれる日本固有の技法を中心としている。職人は簀桁(すけた)と呼ばれる竹製の簀を木枠にはめた道具を用い、ネリを混ぜた繊維液を前後左右に揺り動かしながら繊維を均一に絡み合わせて薄い紙層を形成する。この揺動の技術が紙の均質性と強度を左右する重要な工程である。漉き上がった紙は重ねて圧搾し水分を除いたのち、一枚ずつ丁寧に剥がして板や乾燥室で天日・加温乾燥させる。厚みや用途に応じて繊維の配合や漉き方を調整できるため、書道用・版画用・文化財修復用など多様な品質の紙が生み出される。
風土と工芸
鳥取県東部は中国山地から流れ出る清冽な河川に恵まれており、和紙漉きに不可欠な良質の軟水が豊富に得られる。また冬季の寒冷な気候は雑菌の繁殖を抑え、繊維の純度と紙の白さを高める効果があり、因州和紙の品質維持に自然環境が大きく寄与している。